“声出し”で脳力がアップする
スポーツの現場では、「やー!」「えい!」などの「声出し」がよく行われています。
空手や剣道では稽古を始める前に発声するよう指導されますし、部活や体育の授業で走ったり力を入れたりする前に、大きな声を出すよう指導された経験がある方もいらっしゃると思います。卓球選手の福原愛さんは、現役時代に「サーッ!」という掛け声を出すことで有名でした。
なぜ声を出すことが推奨されるのでしょうか? 私が2007年に論文発表した研究に、その答えがあります。
“無言”と“声出し”で異なる歩幅
7人の健康な方に協力をいただき、歩き始めるときに無言でスタートする群と、自分で「用意!」と声を出してからスタートする群とに分け、それぞれの脳の働きを調べました。すると、面白い結果が出たのです。
声出しをした群は前頭前野と運動前野の血流が活発になり、歩幅が大きくなりました。これは、「用意!」という掛け声が、前頭部を活性化し、歩く運動を向上させたという事実に他なりません。また、大きな声には、神経系における運動制御の抑制レベルを外し、5〜6%程度の筋力の出力アップが期待できるというデータもあります。
アドレナリンが適度な緊張や集中をもたらす
大きな声を出すと、脳からはアドレナリンが分泌されます。アドレナリンとは 神経伝達物質の一つで、心拍数や血圧上昇作用のあるホルモンです。分泌されると、自身を奮い立たせたり、適度な緊張や集中力をもたらします。アドレナリンが分泌されることにより、目の前の恐怖や不安に対して、体と脳が戦闘モードに切り替わり、立ち向かうことができるのです。
スポーツの練習や試合では、開始前の挨拶からしっかりと大声を出すことで、意識的にアドレナリンを分泌させているわけですね。「声出し」など精神論のようだと思われるかもしれませんが、実際にはきちんと効果があるのです。
緊張を伴う行動の前には“声出し”を
スポーツだけではなく、試験やスピーチなど緊張を伴う行動の前にも、「よっしゃー!」など、「声出し」をすることは有効です。
ぜひとも声出しの効果を意識的に使って、パフォーマンスを上げてくださいね。
くぼたのうけん顧問
久保田 競 (くぼた きそう)
1932年大阪生まれ。京都大学名誉教授、医学博士、脳科学者。東京大学医学部・同大大学院卒業。京都大教授、同研究所所長を歴任。2011年春、瑞宝中綬章を受賞。40年以上前から赤ちゃん育脳の意義を唱え続け、妻カヨ子氏とともに久保田式育児法を考案。「脳の発達に応じた教育」をいち早く提案している。