私学志向の要因の一つ、私立校と公立校の“オンライン教育格差”とは?
2024年、私立中学校の受験率が、過去最高とみられる18.12%を記録しました。前年よりわずか200名減の「52,400名(前年比99.6%)」と、受験者数は過去2番目です。私学志向の要因は様々ありますが、一つには、コロナ禍で浮き彫りになった公立中学校への不信感であると考えられます。
コロナ禍で浮き彫りになったオンライン対応の差
コロナによる緊急事態宣言が発令されたのが、2020年1月末。文部科学省によると、2020年4月に授業動画を活用できた公立学校(小中高など)は10%に留まり、オンライン指導に取り組んだ公立学校は5%しかありませんでした。一方、私立中高の84.8%が配信型授業を実施し、その過半が4月前半までに開始。双方向型授業もほぼ同様の状況でした(森上教育研究所調べ)。
私立校では、GIGAスクール構想以前から1人1台端末を持っていたり、校内ネットワーク環境が整っていたりと、ICT活用に取り組んでいた学校も多くありました。公立校と私立校では、コロナへの対応に大きく差がついたのです。
「1人1台端末」の配備は完了
しかし、政府も手をこまねいているわけではありません。コロナ禍をきっかけに、2023年度目標としていたGIGAスクール構想を2020年に前倒し。文部科学省が2021年8月末に発表した調査によると、パソコンやタブレットなどの「1人1台端末」の配備について、全国の公立小中学校では2021年7月末時点で90%以上が完了しました。小中学校については、「1人1台端末」の配備は、ほぼ完了しているといえるでしょう。費用負担面で配備が遅れていた高校についても、2024年度現在、国公私立高校の約85%が完了しています。
私立校では先行してICT導入を進めていたところも多く、GIGAスクール構想によってシステムの見直しが行われるなど、オンライン教育がより充実したと考えられます。
半数近い教師が「端末の活用方法がわからない」
一方、公立の小中学校での利活用については、まだ充分とは言えません。公立の小中学校教師を対象に2022年に行われた調査によると、およそ70%の教師が端末を使った授業を「週1回以上行っている」と回答する一方、半数近い教師から、「端末の活用方法がわからない」「操作方法がわからない」という声も寄せられていたからです。
出典:GIGAスクール構想に関する意識調査(株式会社JMC)
公立・私立問わず、これまでICT活用に取り組んでこなかった学校は、2021年からICT環境を急きょ整えることになりました。校内にIT担当者が不在であることも多く、ただでさえ多忙な現場教員が、これ以上の負担を負えるのかという課題もあります。
デジタル教科書も加速度的に普及
自ら決定を下さずに、国や市町村などの方針に従う公立校よりも、学校法人として独自の方針を定め、自由度の高い決定を下せる私立校の方が、オンライン教育やSTEAM教育など、先進的な取り組みに着手しやすいのは事実です。しかしながら、日本のICT教育はまだ始まったばかりであり、公立校であっても、校長の采配によってかなり進んでいる学校もあります。文科省は2022年度以降、全国の小・中学校に1教科分の学習者用デジタル教科書を提供する実証事業を盛り込んでおり、学習者用デジタル教科書も、加速度的に普及しています。
2024年度以降は、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末の更新を開始。各学校に整備された900万台を超える端末ですが、すでに故障率の上昇やバッテリーの劣化といった問題に直面しており、端末更新費用の一部が補助されます。また、以前から学校のインターネット回線が貧弱であるとが指摘されており、インフラ環境の整備も待ったなしの状況です。
一概に格差を叫ぶのではなく、公立・私立問わず、各学校の取り組みを見極める目が重要だと言えそうです。