教育コラム

「PISA2022」から見る日本の国際競争力

 

世界トップレベルの学力を誇る日本

OECDD(経済協力開発機構)は23年12月、義務教育終了段階(日本では高1)の生徒を対象とした「国際学習到達度調査(PISA2022)」の結果を公開しました。「PISA」とは、社会参加に必要な知識と技能をどの程度習得しているかを評価する調査です。読解力・数学的リテラシー・科学的リテラシーという主要な教育分野に焦点を当て、世界の15 歳の生徒を対象として行われています。通常3年ごとですが、今回はコロナ禍を経て4年ぶりの実施です。

日本は、OECD37か国のうち、数学的リテラシーと科学的リテラシーの両方で1位、読解力2位という結果でした(図1)。

図1

また、81の国・地域を対象とした全参加国における比較でも、数学的リテラシー5位、科学リテラシー2位、読解力3位と、世界トップレベル(図2)。

図2

前回2018年調査からOECDの平均得点は低下した一方で、日本は3分野すべてにおいて前回調査より平均得点が上昇しています(図3)。特に読解力は、前回18年調査で15位(15年調査8位)でしたが、学校現場で工夫を重ね、3位に返り咲きました。

図3

日本の国際競争力が低い理由とは?

一方、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界競争力ランキング2023」によると、日本は64か国中35位と過去最低記録でした(図4)。

図4

日本は、同年鑑が開始された1989年からバブル崩壊前の1992年までの3年間1位を維持し、1996年までは5位以内の高い順位でした。しかし、大手銀行の破綻が相次いだ「平成金融危機」が起きた1997年に17位に急落した後は、20位台で推移。2019年に30位となって以降は、4年連続で30位台となっています。日本の競争力の凋落ぶりは、先進国の中でも類を見ません。特に企業の意思決定の迅速さや機会と脅威への対応力、起業家精神などからなる「経営プラクティス」は最下位であり、日本の最大の課題となっています。

数学を実生活に絡めて学ぶ経験が不足

高い教育水準を誇る日本なのに、なぜ国際競争力は低下しているのでしょうか? その理由を、今回の結果から紐解いてみましょう。

PISAでは毎回、3分野のうち1分野を重点調査しており、今回は数学的リテラシーが対象となりました。その結果を見ると、日本はOECD平均に比べて、日常生活とからめた指導を行っている傾向が低いという結果が出ています。

「実生活の課題にからませて、数学的な解決を求めること」について、「とても自信がある」「自信がある」と回答した生徒の割合は、OECD平均52.5%に対し、日本は30.0%と下回っています。さらに、「実社会の問題の中から、数学的な側面を見つけること」を「何度もやった」「時々やった」と回答した生徒の割合は、OECD平均55.5%に対し日本は37.8%で、数学を実生活における事象と関連付けて学んだ経験が少なく、数学的思考力の育成が進んでいないことがわかりました。日本の子どもたちは、「基礎学力は高いけれど思考力や実践力に欠ける」傾向にあるのです。

自ら解決策を見つけられない日本の子ども

次に、「学校の学習環境」調査結果を見てみましょう。日本では、「困難に直面したとき、たいてい解決策を見つけることができる」という見解に、59%の生徒が「その通り」「まったくその通り」と回答しました(OECD平均84%)。また、日本では、77%の生徒は「自分が失敗しそうなとき、他の人が自分のことをどう思うかが気になる」という見解に「その通り」「まったくその通り」と回答しました。(OECD平均56%)。成績の高い国は、生徒の失敗に対する恐れを感じている割合が高いという傾向がみられます。さらに、学校が休校になった場合に自律的に学習する自信を尋ねたところ、「自信がない」と回答した割合が、日本ではOECD加盟国34か国中最下位でした。

この、「解決策を見つけられない」「失敗を恐れる」「自律的に学べない」という日本の子どもの弱みは、前述した日本の最大の課題「経営プラクティス(意思決定の迅速さや機会と脅威への対応力、起業家精神など)」と通ずるものがあり、国際競争力の低下が学校での学習環境に関連していることは明らかです。

教員の働き方改革が急務

予測不可能なこれからの社会に必要なのは、基礎学力プラス思考力や創造力です。

文部科学省は、「日本が今回好成績を達成できたのは、教師の献身的な取り組みによるところが大きいが、それのみに頼ることは持続可能ではない」と述べています。日本の教員が激務であることは有名で、公立校に優秀な教員が定着しにくいという現実があります。実際、PISA調査でも、私立校に通っている生徒は公立校に通っている生徒よりもよい成績をあげており、教員の指導の質にも差があることは否めません。思考力や創造力を養う教育を公立校で充実させるためには、対応できる人材の確保や教員への研修が必要で、教員の働き方改革は急務と言えるでしょう。

文部科学省はさらに、「全体としてはよく対処できたと思うが、変化の激しい社会において子どもたちがふだんから自律的に学ぶことができるようになるのは重要で、環境を整える取り組みを進めたい」としています。PISAの結果に安心するのではなく、どうしたら高い教育水準と創造性を育む教育を両立できるのか、一歩踏み込んだ対策が必要です。

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