知っていますか?「こども基本法」によって守られる「子どもの権利」
少子化が進む日本では、児童虐待通報は急増し、いじめや自殺、不登校など、子どもが生きづらい世の中になっています。子どもを守ることは喫緊の課題でありながら、日本には子どもの権利を守る基本の法律がありませんでした。その日本でもようやく、子どもの権利をうたった「こども基本法」の制定が、こども家庭庁より2023年4月に公布されました。
「子どもの権利条約」4つの柱
実は子どもの権利に関しては、「子どもの権利条約」という国際条約があります。世界中の子どもたちが一人の人間として基本的人権を所有し、行使する権利を定めた国際法で、1989年の第44回国連総会において採択され、1990年に発効し、日本は1994年に批准しました。「子どもの権利条約」は、大きく4種類に分類できます。
1. 生きる権利 すべての子どもの命が守られること |
2.育つ権利 もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療や教育、生活への支援などを受け、友達と遊んだりすること |
3.守られる権利 暴力や搾取、有害な労働などから守られること |
4.参加する権利 自由に意見を表したり、団体を作ったりできること |
現在、196の国と地域が、この条約でうたわれている子どもの権利の実現と、子どもたちが直面する課題の解決に向けて、力を注いでいます。多くの子どもたちが学校に通えるようになり、児童労働から解放されたことで、子どもらしく生きることができるようになりました。子どもの権利条約は、人身売買や性的搾取などといった子どもを取り巻く課題に対して、国際社会が一丸となって取り組む原動力なのです。
「子ども基本法」6つの理念とは
日本が1994年に「子どもの権利条約」を批准した際、政府は現行法で子どもの権利は守られているとし、国内法の整備が行われませんでした。そのため、子どもの権利を保障する総合的な法律が存在しなかったのです。しかしながら、2000年代に入ると、日本では児童虐待通報は急増し、いじめや自殺も増加。不登校の児童生徒数は毎年最多記録を更新するなど、子どもが健全に育つ環境が失われつつあります。
これら社会的な背景を受け、「こども基本法」は、「子どもの権利条約」および日本国憲法の精神にのっとり、全てのこどもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、こども政策を総合的に推進することを目的として制定されました。下記のこども施策の基本理念のほか、こども大綱の策定やこども等の意見の反映などについても定めています。
3割の教員が子どもの権利をよく知らない
しかしながら、2024年現在、「こども基本法」の認知度は高いとは言えません。国際NGOのセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが22年4月、教員を対象にした「子どもの権利」に関する認知度調査を行ったところ、「名前だけ知っている」「全く知らない」と答えた教員は合計で3割を占めました。
教員による子どもの権利の認知度は、内容までよく知っている21.6%、内容について少し知っている48.5%、名前だけ知っている24.4%、全く知らない5.6%で、教員としての勤務年数が短いほど、子どもの権利を「名前だけ知っている」「全く知らない」と回答する割合が多くなりました。
教員による子どもの権利の認知度
出典:セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「学校生活と子どもの権利に関する教員向けアンケート」
教員ですら、子どもの権利を熟知していないのです。一方の子どもたち自身はどうでしょうか。
子ども自身が知らない自分たちの権利
日本財団が2023年3月に全国の10〜18歳の男女を対象に行った「こども1万人意識調査」によると、「こども基本法を聞いたことがない」と答えた人の割合は61.5%でした。これはこどもの約6割、つまり、5人に3人が認知していないということになります。
残り約4割の「くわしく知っている」・「知っている」・「聞いたことがある」という回答に関しても、「聞いたことがある」という回答が約3割を占めるため、 「くわしく知っている」または「知っている」というこどもは10%に満たないのです。
まとめ
国際条約である「子どもの権利条約」、「子どもの権利条約」と日本国憲法にのっとって制定された日本独自の「子ども基本法」。どちらも全てのこどもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指しています。しかしながら、日本での認知度はまだまだ低く、「子どもの権利」が浸透しているとはいいがたいのが現状です。
子どもが生きやすい世の中にするためには、子ども自身が「自分たちは権利によって守られている」と知ること、私たち大人一人ひとりが子どもの権利について理解を深めていくことが重要です。子どもたちの健やかな成長を社会全体で見守るという在り方が問われています。